ユニ・チャームで起きた基幹システムトラブルとは

2024年、ユニ・チャームで国内の新基幹システム稼働に伴うトラブルが発生し、一部商品の納品遅れが報じられました。

ユニ・チャームは「ムーニー」「マミーポコ」「ライフリー」「ソフィ」など、生活に密着した商品を展開する大手日用品メーカーです。そのため、基幹システムの不具合は単なる社内ITの問題にとどまらず、物流・販売・在庫・会計・顧客対応に波及するリスクがあります。

今回の事案は、長期間にわたる大規模な出荷停止には至らなかったとみられます。しかし、ERPや基幹システム刷新において、新システムは稼働したが、物流や販売現場との連携で不具合が出るという典型的なリスクを示した事例といえます。

本記事では、公開情報をもとに、ユニ・チャームの基幹システムトラブルを時系列で整理し、ERP導入・基幹システム刷新を進める企業が学ぶべきポイントを解説します。

ユニ・チャームで何が起きたのか

ユニ・チャームは、販売、購買、在庫管理、会計などに関するシステムを一元化し、事業運営の改善と業務効率化を目的として、国内で新基幹システムを導入しました。

新システムは2024年5月から稼働しましたが、その後、製品の入出荷情報の不整合や、各種データ連携エラーが発生したとされています。

報道では、新基幹システムと物流システムの接続部分におけるデータ連携の不具合、さらに連休明けの注文集中による処理負荷が納品遅れにつながったとされています。

この事案で重要なのは、「新しいシステムを導入したこと」そのものではありません。問題は、販売・在庫・物流・会計といった業務全体が、新システム上で正しくつながっていたかという点です。

ERPや基幹システムは、企業の中枢です。販売データ、在庫データ、出荷データ、請求データ、会計データが正しく連携しなければ、商品があっても出荷できない、在庫があっても納品できない、売上計上や請求にも不整合が出る、という事態が起こり得ます。

この点は、過去の他社事例とも共通しています。たとえば、江崎グリコの基幹システム障害でも、ERP刷新が商品供給に大きな影響を与えました。詳しくは、グリコERP失敗はなぜ起きたのか。江崎グリコの基幹システム障害から学ぶSAP S/4HANA導入リスクでも解説しています。

トラブル発生から終結までの時系列

公開情報をもとに、ユニ・チャームの基幹システムトラブルの流れを整理すると、以下のようになります。

時期主な出来事見るべきポイント
2024年5月上旬ユニ・チャームが国内の新基幹システムを稼働。販売、購買、在庫管理、会計などの一元化を目的としていた。単なるシステム入れ替えではなく、複数業務を横断する大規模な基幹システム刷新だったと考えられます。
2024年5月中旬一部商品の出荷・納品に遅れが発生したとみられる。基幹システムと物流システムの連携、注文集中時の処理能力が論点になります。
2024年5月下旬基幹システム更新に伴う納品遅れが報じられる。新基幹システムと物流システムのデータ連携不具合が指摘された。システム単体の稼働確認だけでは不十分で、物流・販売現場を含む連携確認が重要です。
2024年6月上旬納品遅れはおおむね解消したと報じられる一方、一部ECサイトの対応など、通常運用に戻るまで一定の時間を要した可能性がある。外部から見ると短期収束でも、社内では現場対応・顧客対応・代替運用の負荷が残ることがあります。
2024年8月2024年12月期中間決算QAで、基幹システムトラブルに関連するイレギュラー物流費が約4億円と説明される。ERPトラブルは売上機会だけでなく、追加物流費・人件費・現場負荷として損益に影響します。
2025年3月有価証券報告書で、新基幹システムの稼働が監査上の主要な検討事項として記載される。財務報告の信頼性にも関わるため、基幹システム刷新は会計・監査上も重要な論点になります。

このトラブルの本質

今回のトラブルの本質は、単に「システムに不具合が出た」ということではありません。

より重要なのは、新しい基幹システムが、物流・販売・在庫・会計などの周辺業務と正しくつながり、ピーク時にも安定して動く状態だったかという点です。

ERPや基幹システムは、会社の中枢です。販売データ、在庫データ、出荷データ、請求データ、会計データが正しく連携しなければ、商品があっても出荷できない、在庫があっても納品できない、売上計上や請求にも不整合が出る、という事態が起こり得ます。

特にユニ・チャームのように、日用品を全国へ安定供給する企業では、物流・在庫・販売データの不整合が、店舗や消費者への商品供給にも影響します。

つまり、ERP導入や基幹システム刷新では、システムが動くかどうかだけでなく、業務が止まらずに回るかデータが最後まで正しく流れるか現場が通常運用できるかまで確認する必要があります。

ERP刷新で見落とされがちなポイント

1. 物流システムとの接続

基幹システム側だけでテストが完了していても、物流システム、倉庫管理システム、配送管理、得意先とのデータ連携まで含めて確認しなければ、実際の出荷業務は止まる可能性があります。

特に日用品メーカーのように出荷頻度が高い業界では、物流連携は基幹システム刷新の最重要論点の一つです。

2. 連休明け・月初月末などの高負荷タイミング

通常量のデータでは問題がなくても、連休明けに注文が集中すると、処理遅延やデータ滞留が起こることがあります。

本番前のテストでは、平常時だけでなく、注文集中時・月末締め・棚卸・決算期などの高負荷シナリオを想定して検証する必要があります。

3. 発注側の業務理解

外部ベンダーやコンサル会社がシステム導入を支援していても、最終的に業務を回すのはユーザー企業側です。

販売、物流、在庫、会計の業務を横断して見られる発注側PMOがいなければ、システム上は正しく見えても、現場運用で不整合が発生する可能性があります。

この点は、なぜERP導入・刷新は「丸投げ」で失敗するのか?でも詳しく解説しています。

4. 障害発生時の代替運用

システム切り替え直後に不具合が出ること自体は珍しくありません。重要なのは、不具合が起きた時に、どの業務を優先し、どの商品を優先出荷し、どの顧客・販売チャネルにどう説明するかを事前に決めておくことです。

ERP刷新は「本番稼働日」だけをゴールにしてはいけません。

本当に重要なのは、稼働後も現場が止まらず、顧客対応が継続できる状態を作ることです。

ユニ・チャームの事案から学べること

ユニ・チャームの基幹システムトラブルは、長期間にわたる大規模出荷停止には至らなかったとみられます。しかし、公開情報からは、納品遅れ、追加物流費、人海戦術による対応、現場負荷など、さまざまな影響が読み取れます。

ここから学べるのは、ERP刷新の失敗は、IT部門だけの問題ではないということです。

ERPは、販売、購買、在庫、物流、会計、顧客対応をつなぐ経営基盤です。だからこそ、プロジェクトの成功には、システム構築力だけでなく、業務理解、データ移行、物流連携、現場教育、障害時対応、経営判断までを含めた総合的な管理が必要になります。

特に製造業や日用品メーカーのように、商品供給の安定性が重要な企業では、基幹システムの不具合がすぐに小売・取引先・自治体・消費者へ波及します。

ERP導入の基本的な意味や機能については、ERPとは?意味・機能・導入メリットをわかりやすく解説でも整理しています。

ERP導入で特に注意すべき赤信号

以下に複数当てはまる場合、ERP導入や基幹システム刷新が炎上するリスクが高まります。

  • 要件定義がなかなか終わらない
  • 現場部門がテストに十分参加していない
  • 物流・在庫・会計との連携テストが弱い
  • ベンダーからの追加費用が増えている
  • データ移行の責任者が曖昧
  • 本番稼働後の代替運用が決まっていない
  • 経営層への報告が「順調です」で止まっている
  • Fit to Standardの方針が現場に浸透していない
  • カスタマイズやアドオンが増え続けている
  • ベンダー提案の妥当性を発注側で判断できていない

特に、Fit to Standardが現場に浸透しない場合、標準機能に業務を合わせるはずが、結果的にカスタマイズや追加開発が増え、費用やスケジュールが膨らむリスクがあります。この点は、なぜFit to Standardは浸透しないのか?でも解説しています。

他社事例から見ても、ERPトラブルは珍しくない

ERP導入や基幹システム刷新に伴うトラブルは、ユニ・チャームだけの問題ではありません。

国内では、江崎グリコや関西ペイントなどでも、基幹システム刷新に伴うトラブルが注目されました。海外でも、ERP導入やSAP関連のトラブルは複数報じられています。

これらの事例に共通するのは、ERPそのものの性能だけではなく、業務設計、データ移行、現場定着、ベンダー管理、発注側の意思決定が成功を左右するという点です。

ASCENDが支援できる領域

ASCENDでは、ERP・基幹システム導入における発注側の立場から、プロジェクトの課題整理、ベンダー管理、業務要件整理、テスト計画、データ移行、現場定着、経営報告資料の作成までを支援します。

特に、以下のような状態にある企業は、早めに第三者視点で状況を確認することをおすすめします。

  • 要件定義が長期化している
  • ベンダーからの追加費用が増えている
  • 物流・在庫・会計とのデータ連携に不安がある
  • テストで現場部門が十分に巻き込めていない
  • 本番稼働後の代替運用が決まっていない
  • 経営層にプロジェクト状況を正しく説明できていない

ERP導入や基幹システム刷新は、企業の成長を支える重要な投資です。一方で、進め方を誤れば、追加費用、納期遅延、出荷トラブル、現場混乱につながるリスクもあります。

システム導入をベンダー任せにせず、発注側が主導権を持って管理すること。

それが、ERP刷新を成功に近づける大きなポイントです。

ERPコンサル会社へ依頼する際の注意点については、ERPコンサル会社に依頼する前に確認すべき注意点。ERP導入で失敗しないための契約・体制・テスト基準もあわせてご覧ください。

まとめ

ユニ・チャームの基幹システムトラブルは、ERP刷新や基幹システム導入において、物流連携・データ連携・現場運用がいかに重要かを示す事例です。

システムが稼働しても、業務が止まってしまえば、導入は成功とはいえません。

特に製造業や日用品メーカーのように、商品供給の安定性が求められる企業では、基幹システム刷新の影響が取引先、販売店、自治体、消費者にまで広がる可能性があります。

ERP導入を成功させるためには、ベンダー任せにするのではなく、発注側が業務・データ・現場・経営判断を横断して管理する必要があります。

ERP導入の失敗を防ぐカギは、システムそのものではなく、発注側の準備と管理体制にあります。

ERP導入・基幹システム刷新に不安がある方へ

ASCENDでは、ERP導入プロジェクトの炎上予兆、追加費用、ベンダー管理、現場定着に関する初期相談を受け付けています。

現在のプロジェクト状況を整理し、どこにリスクがあるのか、どの論点を優先して見直すべきかを一緒に確認します。

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参考情報

本記事は公開情報および報道をもとに、ERP・基幹システム導入の観点から整理したものです。原因や責任の所在を断定するものではありません。