2026年の年明け早々、日本の大手塗料メーカーで、基幹システムの切り替えに伴う流通トラブルが発生しました。

舞台となったのは、1918年創業の老舗塗料メーカー、関西ペイントです。

関西ペイントは、自動車用塗料、建築用塗料、工業用塗料などを幅広く展開する国内有数の塗料メーカーです。国内だけでなく、インド、欧州、アジア、アフリカなどにも事業を広げており、グローバルに塗料事業を展開する企業として知られています。

その関西ペイントが、2026年1月5日から新しい基幹システムを稼働させました。ところが、稼働直後から一部の受発注や流通に影響が出始め、一部製品の納品遅延が発生したと報じられています。

今回の記事についてのYouTube動画です

関西ペイントで起きた基幹システム切り替えトラブル

業界専門紙の建通新聞は、2026年1月28日付で、関西ペイントにおいて1月5日から一部製品の納品に遅れが生じていると報じました。報道によれば、営業管理用の基幹システム更新に伴って障害が発生し、流通に不具合が起きているとのことです。

また、自動車補修や塗料業界に関する情報を扱うBSR webも、関西ペイントの新基幹システムの一部に障害が発生し、一部製品の受発注や納期に影響が出ていると報じています。

関西ペイント側は、影響の範囲について限定的であると説明し、不具合が生じている取引先には個別に連絡しているとされています。企業全体の規模から見れば、国内の一部流通障害という位置づけになるのかもしれません。

現場にとって「納品遅延」は小さな問題ではない

建設現場では、材料が届かなければ、その日の作業が止まります。

塗料が予定通り届かないだけで、職人の手配、足場のスケジュール、他業者との工程調整、引き渡し時期にまで影響が及ぶ可能性があります。

特に建設業界では、年度末に向けて工事が集中しやすく、1月から3月にかけては現場の動きも慌ただしくなります。そうした時期に基幹システムの切り替えを行い、受発注や納品に支障が出たことは、ERPや基幹システム刷新の難しさを改めて示す事例だと言えます。

ここで重要なのは、この問題を単なる「システム障害」として片づけてはいけないという点です。

ERPや基幹システムは、会社の中枢を支える仕組みです。受注、発注、在庫、出荷、請求、会計処理など、企業活動の根幹に関わる情報が連動しています。そのため、基幹システムの切り替えで不具合が起きると、影響は社内のIT部門だけにとどまりません。

営業部門は正しい納期回答ができなくなります。物流部門は出荷判断に迷います。取引先は代替品を探す必要が出てきます。現場では、工期や段取りに影響が出ます。

つまり、基幹システムのトラブルは、企業の内側だけではなく、サプライチェーン全体に波及する可能性があるのです。

決算への影響は断定できないが、事業運営上のリスクは大きい

関西ペイントの2026年3月期決算を見ると、連結売上高は約5,897億円、営業利益は497億円台、親会社株主に帰属する当期純利益は316億円台となっています。営業利益は前期比で減少し、純利益も前期比で大きく減少しました。

ただし、純利益の減少については、前期に不動産売却などによる特別利益があった反動など、複数の要因があります。そのため、今回の基幹システム障害が決算全体にどの程度影響したのかを、外部から断定することはできません。

一方で、システム障害が発生した1月から3月は、2026年3月期の第4四半期にあたります。納品遅延や流通不具合が生じた場合、売上計上、在庫管理、顧客対応、物流コスト、代替対応などに何らかの影響が及ぶ可能性は否定できません。

企業全体では「限定的」と説明できる影響であっても、現場単位、取引先単位で見れば、深刻な問題になることがあります。ここに、基幹システム刷新の難しさがあります。

基幹システムの切り替えで最も難しいのは「稼働タイミング」

この事案から見えてくる教訓の一つは、稼働タイミングの重要性です。

基幹システムの切り替えは、単に新しいソフトウェアを入れる作業ではありません。会社の業務の流れを、新しい仕組みに接続し直す作業です。受発注、在庫、出荷、請求、会計処理などが一体となって動く以上、稼働直後に不具合が出れば、その影響は一気に広がります。

特に、年明けや年度末前の時期は、多くの業界で受発注や在庫の動きが大きくなります。建設業界も例外ではありません。年度末に向けて工事が集中し始める時期に、資材の供給が不安定になると、現場の負担は大きくなります。

もちろん、システム切り替えのタイミングには、会計年度、契約期間、旧システムの保守期限、プロジェクトスケジュールなど、さまざまな制約があります。そのため、「この時期に切り替えたことが悪い」と単純に断じることはできません。

しかし、稼働タイミングの判断は、ERPプロジェクトにおける極めて重要な意思決定です。繁忙期に近いタイミングで切り替えるのであれば、通常以上に慎重なテスト、段階的な移行計画、トラブル発生時の代替運用が必要になります。

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江崎グリコの基幹システム障害との共通点

同じような教訓を示した事例として、2024年の江崎グリコの基幹システム障害があります。

江崎グリコでは、基幹システムの切り替えに伴ってシステム障害が発生し、プッチンプリンやカフェオーレなどを含むチルド商品の受発注や出荷に影響が出ました。その後、出荷停止が長期化し、消費者や取引先にも大きな影響を与えました。

業種は塗料と食品で異なります。しかし、共通しているのは、基幹システムの切り替え後に、受発注や出荷という企業活動の根幹部分に支障が出たことです。

ERPや基幹システムの導入で失敗しやすいポイントは、システムそのものの不具合だけではありません。むしろ、業務プロセスとのすり合わせ不足、データ移行の不備、現場テストの不足、例外処理の見落とし、稼働後のサポート体制不足などが重なったときに、大きな問題へ発展しやすくなります。

「画面が動くこと」と「現場で業務が回ること」は違う

新しいシステムの画面がきれいに動くことと、実際の現場で業務が止まらずに回ることは、まったく別の話です。

たとえば、受注データが入力できても、その情報が在庫、出荷、請求まで正しく流れなければ意味がありません。出荷指示が出ても、倉庫側で処理できなければ納品は進みません。マスターデータに不備があれば、正しい商品、正しい単価、正しい納期で処理できない可能性があります。

ERP導入の難しさは、こうした業務のつながりを一つひとつ確認しなければならない点にあります。

特に製造業や流通業では、システム上の処理と現場の動きが密接に連動しています。システムで在庫があるように見えても、実際の倉庫で出荷可能な状態になっていなければ意味がありません。納期回答ができても、物流網が動かなければ顧客には届きません。

そのため、基幹システム刷新では、IT部門だけで完結させるのではなく、営業、物流、製造、購買、経理、現場担当者を巻き込んだ検証が不可欠です。

稼働前テストで確認すべきこと

稼働前のテストも、単なる画面操作の確認では不十分です。

実際の取引に近いデータを使い、受注から出荷、請求、会計処理まで一連の流れを確認する必要があります。さらに、通常処理だけでなく、返品、キャンセル、納期変更、代替品対応、欠品時の処理など、現場で起こり得る例外パターンも検証しなければなりません。

多くのERPプロジェクトでは、計画上はテスト期間が設定されています。しかし、実際には開発遅延や要件変更の影響で、十分なテスト期間が確保できないケースがあります。そうなると、本来は稼働前に潰すべき問題が、稼働後に現場で発覚してしまいます。

ERP導入で最も避けるべきなのは、「問題は残っているが、予定通り稼働するしかない」という状態です。

すでに多額の投資をしている。経営層に稼働日を約束している。旧システムの停止日が決まっている。取引先にも新システムへの移行を案内している。こうした事情が重なると、プロジェクトは止めにくくなります。

しかし、基幹システムの場合、無理に稼働させた後の混乱の方が、稼働延期よりもはるかに大きな損害につながることがあります。

ERP導入企業が事前に確認すべき7つのポイント

関西ペイントの事例は、影響範囲が限定的と説明されている一方で、実際の取引先や現場にとっては重要な問題でした。この点は、ERP導入を検討する企業にとって大きな示唆があります。

企業側が確認すべきことは、少なくとも次のような点です。

  • 稼働タイミングは本当に適切か
  • 繁忙期や年度末前に切り替える場合、障害発生時の影響を想定できているか
  • 受発注、在庫、出荷、請求など、止まると事業に直結する業務のテストが十分か
  • 現場担当者が、実際の業務に近い形でテストに参加しているか
  • 返品、キャンセル、納期変更、欠品、代替品対応など、例外処理の確認ができているか
  • 障害発生時の代替運用を準備できているか
  • 取引先への連絡体制、納期回答の方法、社内エスカレーションルートが明確か
  • ベンダーやコンサルティング会社の稼働後サポート体制が契約上明確になっているか

特に重要なのは、障害が起きた場合の代替運用です。

システムが止まったときに、どの範囲まで手作業で対応できるのか。取引先への連絡は誰が行うのか。納期回答はどのように行うのか。こうした対応を事前に決めておかなければ、現場は混乱します。

また、ベンダーやコンサルティング会社との契約において、稼働後のサポート体制や責任範囲を明確にしておくことも欠かせません。障害が発生したときに、誰が原因を切り分けるのか。誰が復旧判断を行うのか。追加費用の扱いはどうなるのか。こうした点が曖昧だと、トラブル発生後に対応が遅れます。

ERP導入は会社を強くする投資だが、準備不足ならリスクになる

ERPや基幹システムの導入は、会社を強くするための投資です。

うまくいけば、業務効率化、データ活用、内部統制の強化、経営判断の迅速化につながります。

しかし、準備不足のまま進めれば、業務効率化どころか、現場を混乱させ、取引先に迷惑をかけ、企業の信用を傷つける可能性があります。

今回の関西ペイントの流通トラブルは、ERP導入や基幹システム刷新において、どれだけ現場業務との接続が重要かを示す事例です。

システムを切り替えるということは、単に古いソフトウェアを新しいソフトウェアに置き換えることではありません。会社の血液の流れを、新しい心臓につなぎ直すような作業です。

だからこそ、稼働前の準備、現場とのすり合わせ、テスト、代替運用、稼働後のサポート体制が重要になります。

まとめ。ERP導入で問われるのは、システムではなく業務理解である

ERP導入で問われるのは、システムの性能だけではありません。

自社の業務をどこまで理解しているか。現場をどこまで巻き込めているか。リスクをどこまで具体的に想定しているか。障害が起きたときに、どれだけ早く対応できるか。

ここを曖昧にしたまま基幹システムを刷新すると、どれだけ大きな企業であっても、現場に混乱が生じる可能性があります。

関西ペイントの事例は、国内企業にとっても決して他人事ではありません。ERP導入や基幹システム刷新を検討する企業は、導入前の段階で「本当に現場で動くのか」を徹底的に確認する必要があります。

華やかな提案書や最新システムの機能だけで判断するのではなく、受注、在庫、出荷、請求、会計といった日々の業務が、稼働後も止まらずに回るのか。

その確認こそが、ERP導入を成功させるための最も重要なポイントです。

ぜひ今回の記事を読んで不安に思うことがあれば、以下フォームで弊社まで一度お問い合わせください

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