ERPの刷新や新規導入を検討する企業の多くは、経営主導ではなく現場発の課題意識からスタートしています。株式会社オロ/ZACが実施した調査によれば、システム導入検討のきっかけとして「社内要因・ボトムアップ」が57.1%と最多を占め、「社内要因・トップダウン」の29.9%を大きく上回りました。つまり、ERP導入の入り口は現場であることが一般的であり、経営が旗を振って始まるケースはむしろ少数派だといえます。

しかし、現場から積み上がった検討が経営の承認までスムーズに至るとは限りません。むしろ、ボトムアップで進んだ検討ほど、途中で頓挫するリスクを抱えやすくなります。

本記事では、ボトムアップ型・トップダウン型それぞれの特性を整理したうえで、頓挫を防ぐための「標準化」という考え方と、現場と経営の間に生じるギャップを埋める外部人材の役割についてご紹介します。

システム導入のきっかけ

ボトムアップ型ERP導入とは何か

ボトムアップ型ERP導入とは、現場(各部門・担当者)が自らの業務課題を起点に検討を進め、その内容を後から経営に上げていく進め方を指します。メンバー層・リーダー層が課題を提案し、最終的に経営層が承認するという流れで意思決定が積み上がっていきます。

これに対してトップダウン型は、経営層が戦略を策定し、リーダー層への指示・命令を経てメンバー層が実行するという、逆方向のプロセスをたどります。

前述の調査結果が示すとおり、実際の現場では両者が併存する形で検討が始まっており、どちらか一方だけで説明できるものではありません。ただし、検討の起点が現場にあるケースが多数を占めている以上、ボトムアップ特有の落とし穴を理解しておく意義は大きいといえるでしょう。

ボトムアップ型ERP導入とは?

ボトムアップ型・トップダウン型、それぞれの利点と課題

ボトムアップ型の利点と課題

ボトムアップ型は、実際に業務を担う現場が起点になるため、業務上の困りごとや課題が反映されやすく、現場の納得感を得やすいという利点があります。「やらされている」感覚ではなく、自分たちの課題解決として主体的に検討へ関わりやすい点も強みです。

一方で、現場は「今のやり方を変えたくない」という意向を持ちやすく、既存業務をそのまま新システムに引き継ごうとする傾向が強くなります。

その結果、各部門・担当者の個別最適な要望が積み上がる一方で、全社としての業務標準化という視点は後回しになりがちです。現場の要望をそのまま形にしようとすると、パッケージ製品の標準機能とのギャップからアドオン開発が膨らみ、期間・コストの面で経営の合意を得られず、検討自体が頓挫しやすいという構造的な課題を抱えています。

トップダウン型の利点と課題

トップダウン型は、経営が方針・判断軸を明確に定めるため、部門横断で整合の取れた仕様設計ができ、標準化の判断もぶれにくくなります。部門間の調整に時間を要しにくく、迅速な意思決定と推進力を確保できる点も強みといえます。

その反面、現場の業務課題や困りごとが十分に反映されないまま仕様が決まりやすく、「やらされている」感覚から導入後の定着が進みにくいという弱点も併せ持ちます。

さらに、経営が方針や判断軸を明確に示さないまま指示だけを出すと、本来のトップダウンとは異なる単なる「号令」にとどまり、現場に負担が集中する事態を招きかねません。

標準化という考え方

頓挫を防ぐ鍵は「標準化」の判断軸

ボトムアップ・トップダウンいずれの進め方であっても、状況を好転させるポイントは共通しています。それは、業務を標準機能に寄せていく「標準化」という発想です。

既存業務をそのまま維持しようとすると、パッケージ製品の標準機能では対応できない部分が生じ、アドオン開発が積み重なっていきます。その結果、システムの作り込みが大掛かりになり、導入期間の長期化やコスト膨張を招くことになります。

ただし、すべての業務を一律に標準化すればよいわけではなく、逆にすべてを既存のやり方のまま踏襲できるわけでもありません。重要なのは、業務ごとに「標準化すべきか、既存のやり方を残すべきか」を見極める判断軸を持つことです。

目安の一つとして、自社の競争優位性に直結する「コア業務」は既存のやり方を踏襲し、他業界・他社でも共通して行われている「ノンコア業務」は標準機能に寄せていくという切り分け方が挙げられます。

なぜ現場だけでは標準化の判断軸を持てないのか

こうした判断軸は、現場が独力で組み立てるにはハードルが高いのが実情です。多くの企業で見られるのは、「DXをやれ」という指示だけが、社長に限らずCIOやDX推進部長といった経営に近い立場から下りてくるものの、標準化の判断軸や具体的な進め方までは示されないという状況です。

上層部の判断は「競合他社が取り組んでいるから、自社も遅れるわけにはいかない」という発想に起点があることが多く、具体的な判断軸にまで踏み込まないまま検討が現場に委ねられていきます。

さらに、現場は自社の中だけで検討を進めようとしても、他社がどのようなプロセスで標準化とカスタマイズの見極めを行っているのか、どのような体制で進めているのかといった情報を持ち合わせていません。指示を出す側と受け取る側の間に大きなギャップが生まれたまま、社内に閉じた検討では進め方の妥当性を検証する手立てがなく、手探りのまま時間だけが経過していきやすくなります。

なぜ現場だけでは判断軸が持てないのか?

判断軸なき状態を埋める、外部人材という選択肢

経営と現場の間に生じるこの空白を埋める存在として、外部人材の重要性が高まっています。その役割は大きく3つに整理できます。

一つは、他社経験に基づく判断軸を持ち込める専門性です。同じ規模感・同じ業界・同じ業種の他社がどのプロセスをカスタマイズし、どこを標準としているかという知見を提示することで、発注企業と一緒に落としどころを探ることができます。

二つ目は、特定部門の利害から独立した中立的な立場です。社内人材は部門間の力関係にとらわれやすく、標準化の意思決定が個別最適に陥りやすいのに対し、外部人材は全体最適の視点で調整を進めやすくなります。現場の説得を経営層側の立場から担うこともあれば、現場からの声を経営層に橋渡しする役割を果たすこともあります。

三つ目は、実行フェーズを推進する実務の担い手としての機能です。経営方針と現場実務をつなぐ役割が社内で明確でない場合、検討は号令倒れに終わりやすくなります。外部人材がPMOとして実務を担うことで、方針を実行にまで落とし込むことができます。

外部人材が果たす役割

まとめ|ボトムアップとトップダウンをつなぐために

ボトムアップ型ERP導入は、現場の納得感を得やすい半面、全社最適の視点を欠いたまま検討が進み、経営合意に至らず頓挫するリスクを抱えています。トップダウン型もまた、方針や判断軸が伴わなければ単なる号令にとどまり、現場との溝を広げてしまいかねません。

両者の間にある溝を埋めるのが、業務ごとに標準化の可否を見極める判断軸であり、それを現場だけで組み立てることが難しい場合には、他社比較の知見と中立的な調整力を持つ外部人材の活用が現実的な選択肢となります。ERP導入の検討を「誰が始めたか」だけでなく「誰が最後まで橋渡しするか」という視点で見直すことが、頓挫を防ぐ第一歩になるはずです。